街の中の家、家の中の街

建築主の奥様が生まれ育った家を二世帯住宅へと建て替える計画のお手伝いをしました。
周囲を住宅と倉庫に囲まれた1階は、バリアフリーに配慮した親世帯です。暮らしやすい広さの中に、動線が短くなるよう必要な機能を田の字型に集約し、唯一視線が抜ける南西側に配置しています。

隣地越しに川の景色が一望できる環境だった2階は子世帯の住まいです。ダイニングの大きな開口からは、遊歩道を行き来する人々の姿がまるで写真家の植田正治氏の作品「パパとママとコドモたち」のように見え、時間が経つのを忘れてぼんやりと眺めてしまいます。

しかしながら、いつかは隣地に建物が建つことを予見されるため、川に対して大きな開口を設けつつも屋根の勾配を利用した天井の高い空間をつくり、内部空間自体の魅力を高めることを目指しました。

2階部分は、東西に長い敷地を強調するような長く天井の高い一室空間で、南側に寝室・将来の子供室・階段室・洗面所をまとめたボリュームを挿入し、その上部をロフトとして広い収納空間とした構成としています。細長く天井が高いLDKを「遊歩道」的な空間と捉えるならば、南側の寝室等を含むボリュームは小さな空間を内包した「家」のような場。

室内に居ながらも街の空間構造を感じられる入れ子の関係を内包することで、景観に左右されずに豊かな生活が送れるように配慮しました。