シェアードルーフテラスの家
用途
竣工
所在地
構造設計
施工
一戸建ての住宅(三世帯住宅)
2021年5月
東京都
清水川真/レイドプランニング
株式会社篠崎工務店
外部空間を介してつながる2.5世帯住宅
この地で育ったきょうだいが独立し、時を経て再び親世帯と共に集まって住むために計画された住宅です。
閑静な住宅街にある南北に長い敷地は、十二分な面積があるものの道路に面する北側を除く三辺には隣家が迫ります。また、家族とはいえそれぞれの生活がある世帯が集まって住む場として適度な距離感を持って生活を送れるようにするために、道路・中庭・ルーフテラス・庭といった4つの外部空間それぞれの世帯の視線の行き先となるよう配置しました。
敷地北側に位置する住戸Aは、道路との高低差を利用した駐車スペースを備えるスキップフロアの住宅です。主な生活空間となるフロアは道路と1層分の高低差があり、二層吹き抜けとなるリビングの大きな開口部からは歩行者の視線を気にすることなく一様に拡散した柔らかな光を取り込むことができます。
住戸Bが位置する南側は、幸いにして隣接する住戸に開口部がほとんどありません。2階レベルにあるリビングでは、手が届く距離に迫る紅白のウメやキンモクセイが香り、都市の只中にありながらも自然が感じられる、緑あふれる庭に向かって開かれた家としています。
それら住戸ABの間にある中庭を眺める位置に住戸Cを配しました。介護を必要とする親世帯のスペースで、キッチンや浴室は住戸ABの設備を利用できるように住戸Cを経由して各世帯が行き来できるようにしています。
住戸ABはその中庭と住戸Cの2階レベルにある共用ルーフバルコニーとによって、外部空間で距離を置きつつも繋がった状態としており、それぞれ別な玄関を持つ一戸建ての住宅的な子世帯二つが親世帯を挟んだ2.5世帯住宅となっています。
この二つの家に挟まれたバルコニーのある生活は、旅先で見かけた生活様式がヒントになってます。設計事務所を設立して間もない2005年に世界の街や建築を見る旅をした際、ロンドンからブリュッセルに向けて乗ったユーロスターが市街地を出る前に車輌トラブルで2時間ほど停車しました。手持ち無沙汰でただただ車窓から街を見ていると、屋根にチムニーポットが並ぶレンガ造のタウンハウスが立ち並ぶ建物に目が留まりました。時計の文字盤で言えば、12時の方向と2時の方向に建つタウンハウスがあり、それらが交わる部分で両棟を接続する低層部があるという構成です。気持ちが良さそうな場所だなと、その低層部の屋上を見ていると12時方向のタウンハウスからそのバルコニーに男女が出てきて、お茶を飲みながら新聞や雑誌を読み出しました。こちらから見える南側は手すり程度の高さの腰壁であるため、二人の様子は遠めではあるが良く見えますが、バルコニーの北側は人の背丈ほどの壁が立ち上がっているため、彼らの姿はある程度周囲の視線からは守られており、非常にリラックスした雰囲気が感じられます。しばらく見ていると、一人が立ち上がって2時の方向の建物に入っていきます。どうやら、彼らは両方の棟に自らの部屋を持っていて、天気の良い日にはそのバルコニーで食事をしたり、本を読んだりして気ままに外部の生活を愉しんでいるようでした。
この「シェアードルーフテラスの家」は、都市における理想的な外部空間の使い方として頭の片隅にあり続けた屋上のあり方を具現化した計画でもあります。