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蒲田の集合住宅

用途
竣工
所在地
​構造設計

施工

共同住宅
2022年11月
東京都大田区
下久保亘/オンスタジオ
構造設計事務所
大三工事株式会社

隔て、逸らし、受け止める壁

古代中国にて祭器として用いられた玉璧と呼ばれる物がある。中央に孔のあいた円盤で、天との交信する際にも使われていたという説があるそうだ。漠然と空を見上げるのではなく、天と地という二つの対象の間に璧を置き、敢えて隔てることで遥かなる距離を一気に縮めて表現したのだろうか。

建築において「璧」に似た文字である「壁」は重要な要素だ。外壁であれば室内を外部の環境変化から守る存在であり、建物内部においては異なる用途の室を併置させるために、壁を用いて仕切ることで空気的あるいは視覚的な断絶を図る。日常的な会話の中でも「人との間に壁をつくる」「壁に突き当たる」など、おおむね何かを遮る存在として用いられる。だが、同時に開口のない壁も無く、壁が立つことによって意識される「あちらとこちら」の関係を、そこにあけられた孔の存在によってコントロールする媒体であるとも言える。本計画は、特区民泊の許可を得れば宿泊施設としても活用可能な機能を備えた共同住宅である。規模および求められる耐震・耐火・遮音などの性能から経済的合理性のある壁式RC造を選択し、空間を構成する「壁」についてそのようなことを考えながら設計を進めた。

敷地周辺では、JRと東急蒲田駅と京浜急行蒲田駅を結ぶ通称「蒲蒲線」の開通を見据え、またインバウンド需要の受け皿として宿泊施設の開発が進んでいる。前面道路も車通りが少ない割には道幅に余裕があり、都市計画的にも中層の業務系施設が建ち得る場所で、実際に同じ街区には5階建ての事務所や7階建てのマンションもあれば、比較的大らかなサイズの敷地に建つ低層の戸建住宅もある。本物件も戸建住宅から投資用共同住宅への建替えであり、検討次第では道路側も5階にし得るが、相対する戸建住宅に配慮して4階に留めつつも、建物全体としては都市計画上建築可能な上限に近い容積を確保した。

1階の道路側には、近隣にも開放されたコインランドリーと共同住宅へのアプローチが並び、その間に構造体としての壁が立つ。ファサードの薄墨色に染められた両端の壁は、道路斜線制限の緩和を得るための天空率計算上有効となるよう端部をセットバックしているが、それによって建物内から対面する戸建住宅に向けられる視線をわずかに逸らす効果も得ている。一方でファサード中央部にあるコンクリート打放の無開口の壁は、道路側の水平力を担う耐力壁であるとともに、両側の壁から少しエッジを出すことで視覚的に一枚の象徴的な壁として際立たせ、スギの木目がさりげなく転写されたその表情で街行く人の視線を柔らかく受けとめている。

変わりつつある街に建つ計画として、土地のポテンシャルを活かしきる経済性と従来から暮らす人々の生活の折り合いをつけるための少しの工夫を壁に託した。

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